谷汲駅構内 車両紹介


 製造当初の姿。(画像はほぼ同型の700形)

日本車両鉄道同好部・鉄道史資料保存会(編)『日車の車輛史 写真集-創業から昭和20年代まで』、鉄道史資料保存会、1996年 ISBN 978-4885400988 112頁 

時代に合わせて前照灯や扉を交換、ワンマン化や雨どいの設置も行われた。 

モ750形755号車

((旧)名古屋鉄道→名岐鉄道デセホ750形755号)

モ750形について

1928年、旧名古屋鉄道(現在の犬山線や名古屋本線西部を運営、美濃電気軌道(旧美濃町線や旧岐阜市内線を運営)合併で1930年に名岐鉄道へと改称)によって、前年に製造された初の半鋼製車デセホ700形とほぼ同一の設計で製造されました。

当時、名古屋側の終点柳橋駅が併用軌道(路面電車区間)を介した先にあったため、ポール式終電装置を備え、併用軌道区間の視界確保のために前照灯が窓下に設置されるなど現在とは趣の異なったスタイルでした。これらは1941年の新名古屋駅開業に伴い、路面区間乗り入れが廃止となったため撤去、窓下にあった前照灯も現在の位置に移設され、概ね現在の表情へと変化しました。

名岐鉄道と愛知電気鉄道(現在の名古屋本線東部や常滑線を運営)の合併、名古屋鉄道の発足を経て、岐阜~名古屋~豊橋間の東西直通運転に伴う旧名岐鉄道区間の1500Vへの昇圧が始まると、後継のモ800形などと比較して小型で非力なモ750形は昇圧対応改造の対象外となりました。

このため、まず1948年の時点では600Vのまま残置されていた広見線・小牧線へと転属、その後1964年に広見線・1965年に小牧線が昇圧されたため瀬戸線に転属、さらに瀬戸線も1978年に昇圧されたため結果的に昇圧が行われなかった揖斐線・谷汲線に転属となりました。

1984年より谷汲線や揖斐線のワンマン化に伴いワンマン運転への対応改造を受け、バックミラーの設置や整理券発行機の新設などが行われ、同時期にはドアの交換や窓のアルミサッシ化も行われ現在保存されている姿となりました。

製造から70年以上経過した1990年代後半、経年劣化により同形式の大半は新型車両モ780形に置き換えられましたが、谷汲線の深刻な電圧降下には直流電動機を搭載する旧型車しか対応できず、755号を含む三両のみ谷汲線・揖斐線末端区間専用車両として残置されました。

2001年の谷汲線・揖斐線末端区間の廃線と共に名鉄からは除籍され、現在は谷汲駅一番線にて一部動態での保存がされています。

モ755について

755号は1932年、756号と共に鉄道省高山線直通専用車両として半室を畳敷き仕様に改造され、柳橋駅から鉄道省下呂駅までの直通運用に供用された経歴を持ち、これはのちの北アルプス号につながる名鉄と高山線の直通列車の先駆けとなるものでした。

また、755号は後年の改造工事で別体化された尾灯の位置が他の同型車両と異なり内側寄りで、別体化される前の表情と類似した外見であることも他の車両にはない固有の特徴となっています。



 製造当初の姿。(左下、画像は類似車両の520形)

名古屋鉄道株式会社社史編纂委員会(編)『名古屋鉄道社史』

名古屋鉄道、1961年 127頁

大正時代特有の流線形や丸窓はそのままに岐阜市内線・揖斐線直通列車として改造を受けた

モ510形514号車

(美濃電気軌道→名岐鉄道セミボ510形514号車)

1926年、美濃電気軌道(岐阜市内線や美濃町線を運営)によって、1923年に製造された木造車BD505形(→名鉄モ520形)をもとに製造された美濃電初の半鋼製車両です。登場時当時、路面電車型の車両がほとんどだった美濃電の中で、数少ない高床の鉄道線車両として、BD505形(モ520形)と共に笠松線(現名鉄名古屋本線名鉄岐阜~笠松間)で運行されました。

 

1930年、名岐鉄道への合併に伴い軌道線の美濃町線へ転属し、その後1967年までは緑と白の軌道線車両標準塗装で美濃町線にて活躍しました。

1967年、揖斐線・岐阜市内線直通列車運行開始の際には軌道線・鉄道線両方で運行された実績のある510形・520形が専用車両に抜擢され、特徴的な赤白の急行塗装への変更や転換クロスシートの設置、併結対応工事、集電装置のパンタグラフへの変更などが行われました。

揖斐線直通列車運用中には放送装置の新設や自動扉化、ワイパーの自動化や前照灯のシールドビーム化などの近代化工事が行われ、塗装の簡略化・赤への単色化が行われました。

1987年に長年現役で運行されている車両に与えられる「エバーグリーン賞」を鉄道友の会より受賞したことを機に再度赤白の専用急行塗装をまといました。

こうして各種改造を受けながら同世代の車両の中では異例ともいえる長期間にわたって活躍をつづけ、この功績より鉄道友の会より「エバーグリーン賞」を受賞するなどしましたが、1987年から1988年にかけて、モ770形の新造に伴い514号を含む三両を残して廃車となりました。この3両は新型車両の導入に伴い2000年以後は定期運用を退きながらも、予備車・貸切/臨時列車用としての運用は続けられ、特に谷汲線においては電圧降下により新型車両の運用ができないため、毎月18日の華厳寺月命日や年始の初詣需要に伴う臨時運行に使用されました。

2005年の岐阜地区600V線全廃に伴い78年にわたる運行を終え、現在は谷汲駅二番線にて保存されています。